海の怪物に攫われる女性:デューラー
アルブレヒト・デューラー『海の怪物』1498年、ナショナル・ギャラリー(ワシントン)
奇妙な絵だ。豊満な肉体をした女性が海の怪物に攫われて、
海の彼方か海中に引き込まれようとしている。
それなのに、女性には恐怖の表情はない。
浜辺で騒ぐ家族の者たちをぼんやりと遠くに見ているだけなのだ。
浜辺では女性たちがセザンヌの描く水浴者たちのように、さまざまなポーズをとっている。
横向きの女性は球根型の下腹部がぽっちゃりした体型だ。
これはルーベンスやレンブラントまで続くような北方美術の特徴らしい。
おそらく豊穣を呼ぶ女体を表しているのだろう。
そうすると海の怪物に攫われる女性も、豊穣予祝を意味するのかもしれない。
日本では水辺で機織りをする乙女の民譚が多く、
沖縄でも海で遭難する神女の話が多い。
おそらく女性が水の神を迎えることが、豊穣を招き寄せる行為だったのだろう。
女性は海の怪物に攫われているのではなく、
豊穣を招く女神に変身する途上なのかもしれない。
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