柄杓一本で伊勢参りのできた江戸時代

具志堅 要

2020年06月29日 01:02


歌川広重と国貞による《雙筆五十三次_袋井 女巡礼》(1854年、 東京都立中央図書館蔵)

このシリーズでは広重が風景を描き、国貞(豊国三世)が人物を描いた。

巡礼の姉弟が手に持った柄杓を差し出している。この二人の子供は「抜け参り」で、柄杓を差し出してお布施をもらっている。

抜け参りというのは江戸時代にほぼ60年周期で起こった伊勢参りのこと。数百万人の群衆が伊勢参りに参加するという大規模なものだった。

「ひしゃく一本持てば旅ができた」といわれ、沿道の住民による接待「施行(せぎょう)」も盛んで、「おかげ参り」とも呼ばれた。

1830年のおかげ参りでは、当時全国で三千万人台の人口に対して、約430万人が参加したとされる。ほぼ七人に一人だ。貧富の格差を問わず、それだけの人々が伊勢参りに参加することができたのだ。

柄杓一本で巡礼の旅ができた江戸時代は、本当の意味で豊かさを実現した時代だったのだろう。

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