老いと幼年、真逆なものをつなぐ国芳
『小倉擬百人一首(おぐらなぞらえひゃくにんいっしゅ)』より
歌川国芳筆「猿丸太夫
奥山に もみぢふみわけ なく鹿の
こえきくときぞ 秋はかなしき」 1846年、ボストン美術館蔵
箱王丸というのは、敵討ちで名高い曽我兄弟のうちの曾我五郎の幼名。
子どもの頃から暴れん坊だったので、
母親が箱根権現に稚児として預け、仏門の道を歩ませようとしていた。
猿丸大夫がうたう、鹿の鳴く声だけが聞こえるという奥山の情景を
奥山だけでつないで、暴れん坊で名高い箱王丸になぞらえている。
浮世離れの歌を仇討ちという真逆な感性で表現しているのだ。
紅葉が老いを象徴し、箱王丸は幼年を象徴する。
真逆なものをつないでみせるのだ。
箱王丸ハ母のはからひにて 桑門させんと 箱根山へ登せしに 祐経代参に来り 初て対面をなし 赤木造の短刀を引出物とす 其時僅八才なるが 心中に思ひけるハ 父の怨 己成人するならば 一万との心をあハせ 怨を討べしと 遂に下山なし 兄弟ともに艱苦し 後裾野にて本望を達し 英名をとどろかす
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