老いと幼年、真逆なものをつなぐ国芳

具志堅 要

2023年04月22日 21:58


『小倉擬百人一首(おぐらなぞらえひゃくにんいっしゅ)』より
歌川国芳筆「猿丸太夫 奥山に もみぢふみわけ なく鹿の
 こえきくときぞ 秋はかなしき
」 1846年、ボストン美術館蔵

箱王丸というのは、敵討ちで名高い曽我兄弟のうちの曾我五郎の幼名。
子どもの頃から暴れん坊だったので、
母親が箱根権現に稚児として預け、仏門の道を歩ませようとしていた。

猿丸大夫がうたう、鹿の鳴く声だけが聞こえるという奥山の情景を
奥山だけでつないで、暴れん坊で名高い箱王丸になぞらえている。
浮世離れの歌を仇討ちという真逆な感性で表現しているのだ。

紅葉が老いを象徴し、箱王丸は幼年を象徴する。
真逆なものをつないでみせるのだ。

箱王丸ハ母のはからひにて 桑門させんと 箱根山へ登せしに 祐経代参に来り 初て対面をなし 赤木造の短刀を引出物とす 其時僅八才なるが 心中に思ひけるハ 父の怨 己成人するならば 一万との心をあハせ 怨を討べしと 遂に下山なし 兄弟ともに艱苦し 後裾野にて本望を達し 英名をとどろかす

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