危険な絵を描いたブリューゲル

具志堅 要

2020年12月29日 22:23


ピーテル・ブリューゲル(父)《ベツレヘムの嬰児虐殺(細部)》(1565〜67年頃、イギリス王室コレクション)

母親はパンか何かが切り裂かれて泣いているのではない。
元の絵は切り裂かれた幼児だったのだ。
ブリューゲルは新約聖書から《ベツレヘムの嬰児虐殺》を描いた。
それはあまりにも物騒な作品だったようだ。
1566年のネーデルラントでは、カルヴァン派による
カトリック教会の偶像破壊運動があった。
翌年にはカルヴァン派を弾圧するために、
スペインから1万人の兵士が送られた。

そして幾年か後に、何者かがブリューゲルの絵に手を加えた。
ブリューゲルの同姓同名の息子は、
父親の絵のコピーを数多く描いた。
だから元の絵がわかるのだ。


《ベツレヘムの嬰児虐殺(細部)》

兵士が連れ去ろうとしている子牛は、
兵士に腕を引きずられる子どもだ。


《ベツレヘムの嬰児虐殺(細部)》

右側の兵士が掴んでいるのは、
ガチョウではなく、子どもだ。
そして下の絵が全体像だ。
ブリューゲルはプロテスタントにもカトリックにも
与することはなかったといわれる。
しかし目前で繰り広げられる暴力を
聖書の話をする風に描いたのだ。

それでもあまりにも危険すぎる絵だった。
だから描き加えられてしまったのだ。

この絵を見るたびに、
ブリューゲルの勇気を噛みしめる。


《ベツレヘムの嬰児虐殺》

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