「マルタとマリアの家のキリスト」と豊かな台所

具志堅 要

2022年12月31日 20:30


ヨアヒム・ブーケラール『四大元素:火、マルタとマリアの家のキリストのいる台所光景』1570年、ナショナル・ギャラリー(ロンドン)蔵

宗教改革の嵐の吹き荒れた16世紀のフランドル。
豊かな台所の片隅に聖書のエピソードの描かれる風俗画が描かれるようになった。
「マルタとマリアの家のキリスト」は好まれたテーマだった。
食事の支度よりもイエスの言葉に聞き入る方が大事だという教えだったからだ。

一行が歩いて行くうち、イエスはある村にお入りになった。すると、マルタという女が、イエスを家に迎え入れた。 彼女にはマリアという姉妹がいた。マリアは主の足もとに座って、その話に聞き入っていた。マルタは、いろいろのもてなしのためせわしく立ち働いていたが、そばに近寄って言った。「主よ、わたしの姉妹はわたしだけにもてなしをさせていますが、何ともお思いになりませんか。手伝ってくれるようにおっしゃってください。」主はお答えになった。「マルタ、マルタ、あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している。しかし、必要なことはただ一つだけである。マリアは良い方を選んだ。それを取り上げてはならない。」(「ルカによる福音書」10章38-42節)


地上的な豊かさの裏には、そのようなものの価値を超える信仰心が潜む。
それが宗教改革から導き出された教えだった。
台所から覗く奥の部屋にはキリストがいて、マリアに語りかけている。
客をもてなす料理に取りかかろうとするのはマルタだろうか。



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