児童文学の最盛期に、使い捨てされた少年労働者たち

具志堅 要

2025年03月05日 10:05

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』(1865年)の出版された頃のイギリスでは、
印刷所では11歳から17歳までの少年たちが二日間で36時間の労働に従事していた。
印刷の仕事をしながらも、
彼らは文字を知らなかった。
印刷機が導入される前は、
彼らは徒弟修行の中で文字を覚え、
一人前の職人に成長していったのだが、
印刷機導入後のイギリスでは、
「子ども」の仕事のできなくなった少年たちは、
17歳で工場から放り出された。

たとえば、イギリスの印刷所では、以前は旧式工場手工業(マニュファクチャ)と手工業の制度に適応して、徒弟がより容易な作業からより内容豊富な作業に移行することが行なわれた。彼らは一連の修業過程を経て、一人前の印刷工になった。読み書きのできることは、彼らのすべてにとって手工業の一要件だった。印刷機の出現とともに一切が変わった。印刷機には二種類の労働者が使用され、一人の成年労働者は機械監視工であり、他の数人の少年機械工は、多くは11歳から17歳までの者で、もっぱら、一全紙(ボーゲン)の紙を機械に差込んだり、印刷された紙を抜出したりすることに従事する。彼らは、ことにロンドンでは、一週の数日間は中断なく14、15、16時間、また往々にしては食事と睡眠とのための僅かに2時間の休息をもって、引きつづき36時間この労苦に従う! 彼らの一大部分は、文字を知らず、また、通例きわめて粗暴な異常な人間である。「彼らにその仕事を覚えさせるには、何らの知的訓練も必要でない。彼らには、熟練を用いる機会はほとんどなく、判断を用いる機会にいたっては、なおさら少ない。彼らの賃金は、少年としてはいくらか高い方であるとはいえ、彼ら自身の成長するにしたがって、高くなるわけではなく、また、機械一台について、監視工は一人にすぎないのに、少年はしばしば四人もつくのであるから、彼らの大多数は、機械監視工という収入と責任とのより大きい地位に進む見込みは全然ない」。彼らが子供の仕事をするには歳をとりすぎれば、すなわち少なくとも17歳になれば、彼らは印刷所から解雇される。彼らは犯罪の新兵になる。彼らに何かほかの職業を与えようとする二、三の試みは、彼らの無知、粗暴、肉体的および精神的頽廃のために挫折した。〔引用部分は『児童労働調査委員会、第五次報告書』1866年による〕
(マルクス『資本論(二)』岩波文庫版503-504ページ。)

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