カラヴァッジョ——美青年たちと気性の激しい女たち

具志堅 要

2016年03月02日 12:00

3月1日から6月12日まで、国立西洋美術館で『カラヴァッジョ展』が催されている。見に行くことは叶いそうにないが、せめてブログでカラヴァッジョ(Caravaggio)を堪能してみたい。

カラヴァッジョ(1571-1610)はバロック期のイタリア人画家だ。バロックは「ゆがんだ真珠」を意味するポルトガル語のbarrocoから来ているとされる。そのバロックという言葉にふさわしいように、カラヴァッジョの生涯は、リスキーなエピソードに満ちあふれたものだった。

1592年に役人を負傷させ、生まれ故郷のミラノを飛び出し、ほとんど無一文の状態でローマへ逃げ込んだとされる 。カラバッジョはローマで画家としての名声を確立するが、1606年に乱闘で若者を殺してローマを逃げ出すことになる。

1608年にマルタで喧嘩沙汰を起こし、逮捕され投獄されている。

1609年にナポリで襲撃を受け、顔に重傷を負った。

1610年、カラヴァッジョはローマでの殺人の罪が許されるという恩赦を受けることになる。ところが、恩赦を受けるためにローマに向かう旅の途中で病に倒れ、38歳の若さで死去する。

カラヴァッジョは美青年と激しい気性の女性たちを愛した。

このような美青年たちだ。


カラヴァッジョ作《トランプ詐欺師》(1594年頃)キンベル美術館


カラヴァッジョ作《青年バッカス》(1595年頃)ウフィツィ美術館


カラヴァッジョ作《女占い師(ジプシー女)》(1595年頃)ルーブル美術館

激しい気性の女性たちはこのようなものだ。


カラヴァッジョ作《悔悛するマグダラのマリア》(1594年 - 1595年頃)ドリア・パンフィリ美術館

マルコによる福音書では、復活したイエス・キリストに最初にあったのはマグダラのマリアだった。

週の初めの日の朝早く、イエスはよみがえって、まずマグダラのマリヤに御自身をあらわされた。イエスは以前に、この女から七つの悪霊を追い出されたことがある。マリヤは、イエスと一緒にいた人々が泣き悲しんでいる所に行って、それを知らせた。彼らは、イエスが生きておられる事と、彼女に御自身をあらわされた事とを聞いたが、信じなかった。
(「マルコによる福音書」16:9-11、日本聖書協会)

西洋絵画ではマグダラのマリアは娼婦として表現される。それが伝統的な解釈なのである。この絵では、絵の左下に虚飾を表わす真珠の首飾りや黄金の鎖などが投げ捨てられている。西洋の画家には珍しいことであるが、カラヴァッジョは女性の肌の露出をほとんど描かない。この絵では胸元や肩の露出が描かれることによって、マグダラのマリアが娼婦であることを描いている。


カラヴァッジョ作《ホロフェルネスの首を斬るユディト》(1598年 - 1599年)ローマ国立古典絵画館

ユディトは、旧約聖書外典の1つである『ユディト記』に登場するユダヤ人女性。

将軍ホロフェルネスは軍を率いてユディトの住むベツリアの街を侵攻しようとする。美しい未亡人であったユディトは、殺害する目的で将軍ホロフェルネスに近づき、泥酔したところを剣で斬首するという物語である。


カラヴァッジョ作《アレクサンドリアの聖カタリナ 》(1595-1596年頃)ティッセン=ボルネミッサ・コレクション

聖カテリナは、まだキリスト教が迫害を受けていた4世紀キリスト教の聖女で、大釘を打ち付けた車輪で引き裂かれるという刑を受けるが、刑が執行されるその瞬間に車輪は砕け散ったとされる。車輪が砕け散った後に、彼女は斬首され、殉教したとされる。彼女が手に持つ剣は彼女が斬首されたことを意味している。カテリナの首が生々しく描かれている。

カラヴァッジョの描く女性たちは信仰心をテーマにしながらも、気性の激しさを示している。美青年を無智で無垢な存在として描くのとは対照的である。女性への畏怖と美青年に対する愛は、カラヴァッジョの生涯を貫くものだったといえる。

カラヴァッジョ自身の姿は、《トランプ詐欺師》で背後からカードを盗み見する男、ユディトに首を切られるホロフェルネスの中に表わされているような気がする。罪人としての自分を描いているのだ。

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