船に変身した美女の物語(池間島)

具志堅 要

2021年05月14日 21:33

《イキヌプージトゥユミヤーのアーグ》の出典は、外間守善・新里幸昭編『南島歌謡大成 3宮古篇』(1977年、角川書店)で、カタカナで表記された中舌母音の「イ」は「ぅ」、「ジ」は「ずぃ」などのようにひらがなで表記した。一段目は原詞で、二段目は具志堅要による私訳。

池ぬ大按司鳴響み親のアーグ(池間島)
いきぬぷーじとぅゆみやーのアーグ

いきぬぷージ とぅゆみゃが とぅゆんぷージ あがりゃが
池間島の大酋長・鳴り響く親は、鳴り響く大酋長・名高い者は、
よーい(囃子。以下略)

あかイむノ やりョとぅい んさりモノ やりョとぅい
高貴な者だった、優れた者だった

あがたから かヨいだ とぅゆさから みまがだよー
かなたから通って、遠くから妻問いして、

やさトトジ トみョトい トなイすみゃ だきゅとぅい
村の妻を訪ねた、隣りの恋人を抱きとった、

うイがなシ かたんな だチがなシ かたんモ
上に乗って愛おしかったか、抱いて愛おしかったのか、

うイがなシむぬ あたん だチがなシむぬ あたんみョ
上に乗って愛おしい者だった、抱いて愛おしい者だった。

いふかゆーや いかんきゃ くぶさゆーや やらさだ
幾夜も通わないうちに、夜を重ねないうちに、

みどぅんま いつぃ まりゅーういば ぶなりゃ ななつぃ すぃじゅーいどぅ
女が五人生まれた。姉妹が七人誕生した。

まっさびーや いらまん まぶらいや どぅつぃまーん
〔誕生した女の子の中でも〕マッサビーはほんとうに、我が姉妹はとりわけて、

うとぅがっふぁてぃるがら なしゅーとぅーがてぃるがら
末っ子だから、生み止めの子だから、

んまりまい まさりゅーうい うぃでぃまい かさみどぅ
生まれながらに〔器量が〕まさり、生い立ち〔の器量〕も〔人に〕倍する者だった。

うむくとぅん まさりー なかずぃむん かさみーどぅ
思うこともすぐれ、思慮深かった。

まさりーやうてぃがら かさびーやうてぃがら
〔マッサビは、人よりも〕まさっていたので、〔能力が〕重ねていた(人の倍あった)ので、

うやうやぬ ぬずみーや しゅーしゅーぬ ふすみどぅ
貴族たちが〔妻にと〕望み、領主たちが〔妻に〕欲しいと〔言った〕。

うやうやぬ まいから しゆしゆぬ まいから
貴族たちの御前から、領主たちの御前から、

くぅぶぃとぅゆ くゆしば なかぶぃとぅゆ やらしば
請う人をよこしたら、仲人をやらしたら、

うやうやおぅ ぶとぅすぃてぃーにゃーん んなま みゃーすぃかりゃーまい
貴族たちを夫にする気はない。今は楽であっても、

てぃゆすぃみゃー ふーてぃがーよー うぅきゃー はだからまいよ
手を触れ合っているあいだは、〔夫が訪れて妻の家に〕居るあいだは安心であっても、

あとぅぬたみゃ にゃーんぱずぃ すぃまとぅなぅ ひらいんよー
後のためにはならないだろう。シマの隣近所とのつきあいはできないだろう。

すぃまぬぶとぅ むちゃだ すぃまとぅ まぅ ひらいーぱずぃ
シマの夫を持てば、シマの隣近所とつきあっていくだろう。

あんちゃずぃでい かいしば うさきゃーゆみむどぅしば
こう言って〔請う人を〕帰したら、それだけ述べて〔仲人を〕戻したら、

かいひーや うてぃが むどぅひーや うてぃが
帰していると、戻していると、

やまぬ ばかさずぃぬどぅ いなう まいふががどぅ
山の若佐事(山仕事をする若者)が、竜巻の利巧者が〔訪ねて来て〕、

うや うむんやてぃが ばんとぅうり まっさび
貴族を〔夫にしようと〕思わないならば、わたしと居りなさいマッサビ、

しゆゆ くずぃやてぃが さずぃとぅうり まっさびら
領主を〔夫に〕望まないならば、佐事と居りなさいマッサビよ〔と言った〕。

うやうがみ むぬすぃてぃ っヴぁとぅがみゃ うらいん
貴族さえ拒絶しているのに、あなた〔のようにみすぼらしい者〕といられるものか、

しゆゆがみ とぅりすぃてぃ さずぃとぅがみゃ うらいん
領主さえも拒んでいるのに、佐事〔のように身分の低い者〕といられるものか〔とマッサビは答えた〕。

っヴぁふんだいすぃみでぃが みが すぃだい すぃみでぃが
〔そうすると若佐事は、〕おまえのしたい放題にはさせない、メガ(女性の尊称)の思うがままにはさせない〔と言って〕、

うむとぅだき さーりぬーり すぃまぬんみ さーりぬーり
〔竜巻とともに、マッサビを〕於茂登岳に攫(さら)い登った。島の高峰に攫い登った。

つぃつぃみつぃつぃ くみりば くくぬすか くみりば
〔於茂登岳の神が〕月三月(三ヵ月)も〔マッサビを於茂登岳に〕籠らせた。九十日も籠らせた。

まっさびや いらまーん やーっさむぬ やりうとぅい
マッサビはほんとうに、飢えてしまって、

うとぅがふぁ どぅつぃまーん くゆさむぬ やりゅとぅい
末の子はどうしようもなく、弱ってしまって、

やーっさてぃや あぅかに くゆさてぃーや ゆんかに
ひもじいとは言えなくて、弱っていると伝えられずに、

やまやいば うらいん うふぬーんやりゃ たちゃいん
〔於茂登岳の神に〕「山だから居ることができない、大草原だから暮らすことができない、

んぬ ゆらひふぃーさまてぃ んな ちゃーなぎふぃーさまてぃ
もう許してください、もう解放してください」〔と願った〕。

びくがずぃむ むちゅーてぃが さむらずぃむ むちゅーてぃが
〔すると於茂登岳の神は〕「男の〔ような〕心(度胸)を持っていたら、武士(さむらい)の心を持っていたなら、

んにゃ んぎる まっさび やーんかい はり うとぅがふぁー
もう帰っていいよマツサビ、家に走れ末の子よ」〔と言った〕。

ばや みどぅん みゃりまい びくがずぃむ むてぃーみーでぃ
〔マッサビが〕「わたしは女だけれど、男の心を持ってみよう、

ばや ぶなりゃやりゃーまい さむらいずぃむ むてぃーみーでぃ
わたしは姉妹だけれど、武士の心を持ってみよう」〔と言うと〕、

んにゃ びり まっさび んにゃ むどぅり うややんかい
〔於茂登岳の神は〕「それでは去れマッサビ、さあ戻れ親元へ」〔と言った〕。

んつぃなか いきばなんな ぱるなか たつぃばなんな
〔帰る〕道の途中に行くと、原野の中に立っていると、

やまからぬ みずぃぬどぅ やまならひ ひゃりゅーいば
山からの水が、山を轟かせて流れていたので、

さんからぬ みずぃぬどぅ さんならひ ひゃりゅーりば
山岳からの水が、山岳を轟かせて流れていたので、

びくがずぃむー むちゃいん さむらずぃむ むちゃいん
〔マッサビは勇気を失って〕男の心を持てない、武士の心を持つことはできない〔とその場で倒れてしまった〕。

やまがらぬ はたんどぅ とぅびみずぃぬ かたんどぅ
山の河原のかたわらで、飛沫(しぶき)を上げる水のかたわらで、

かたや かたすぃつぃにゃーし かたみーだま すぃつぃにゃーし
〔マッサビは〕片方の肩を下にして、片方の目玉を下にして〔死んでしまった〕。

かたみーからや きーゆうい かたみーから すぃっさにゃーうい
〔マッサビの〕片目からは木が生い茂り、片目からは白い根が生い茂った。

ななうとじゅ まりゅすぃどぅ たすぃきーふぃー すぃとぅーにゃーん
〔マッサビは〕七人〔姉妹〕の末っ子として生まれたが、助けてくれる人はいない。

いつぃうとじゃ ありゅすぃが ゆるきふぃーすぃとぅー にゃーん
五人〔姉妹〕の末の子だったが、〔この受難から〕逃れさせてくれる人はいない。

ばが やーまぬすぃまやーや なみじゃやふずぃまりば
〔船大工たちは歌う〕わが八重山の島は、並みいる大工たちの島だから、

みどぅんまとぅん ゆしじゃやふずぃま やりば
女でさえも、寄り集まる大工の島だから

やまとぅから くだたぅ うふぶーぬーや まかなし
大和〔の国〕伝来の、大斧を打ちふるい、

いつぃつぃんな いらまーん てぃんまがみ はぎゆらし
五枚の大板を〔剥ぎ合わせて〕ほんとうに、伝馬船を建造した。

てぃびから みーてぃが いらまーん まっさびが しるてぃびよー
〔建造した船を〕船尾から見ると、ほんとにまあ、マッサビの白いお尻〔のよう〕だ。

まいから みーてぃがーよー うとぅがふぁーぬ しらうむてぃよー
前から見ると、末の子の白い顔〔のよう〕だ。

うふとぅん いでぃ ひゃらしば とぅなかいでぃ ひゃらしば
大海原に船出して〔船を〕走らせると、〔珊瑚礁の〕外海に船出して走らせると、

まっさびが いらまーん くぱずぃーからー あいきゅーいにゃん
〔大海原を疾走する姿は、〕マッサビが、ほんとうにまあ、大地を踏みしめるようだ。

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