狩俣うやがむのにーり(三)

具志堅 要

2015年03月05日 13:57

ニーリ(三)では、ウプグスク(大城)御嶽を祀るマダマから生まれた末娘のマヅマラーとマヅマラーの甥であるマブコイの活躍が歌いあげられる。マヅマラーとマブコイは、ともにウプグスク・ムトゥに属するようなので、マツメガ、マダマと続く母系親族の系譜に属するものといえる。

物語は、マヅマラーが見事な着物を織りあげたこと、そして、それに嫉妬する他シマの者たちがその着物を奪い取ろうと船で押し掛けてきたときに、甥のマブコイが見事にそれらの盗賊を退治したという話である。

マダマの生んだ七人の子どもたちのうちで、末っ子であるマヅマラーだけが「手仕事にすぐれている子」として、その特性が紹介される。手仕事というのは機織りのことだ。ここから、機織りは、人間の世界での仕事であるとともに、神話的世界における聖なる仕事という両義性をもっていることを知ることができる。

柳田國男は『日本の伝説(1929年)』の「機織り御前」の章で、伝説における機織りの意味を次のように述べている。

昔は村々のお祭りでも、毎年新たに神様の衣服を造ってお供え申していたようであります。その為には最も穢(けがれ)を忌んで、こういうやや人里を離れた清き泉のほとりに、機殿(はたどの)というものを建てて若い娘たちに、その大切な布を織らせていたかと思います。

穢れを忌むということは、聖なる者によって機が織られるということを意味している。折口信夫も『水の女(1927年)』の「たなばたつめ」の章で、聖なる乙女が「来るべき神のために機を構えて、布を織っていた」と述べている。

ゆかは〔神聖な水〕の前の姿は、多くは海浜または海に通じる川の淵などにあった。(中略)そこにゆかはだな(湯河板挙)を作って、神の嫁となる処女を、村の神女(そこに生れた者は、成女戒を受けた後は、皆この資格を得た)の中から選り出された兄処女(エヲトメ)が、このたな作りの建て物に住んで、神のおとずれを待っている。(中略)こうした処女の生活は、後世には伝説化して、水神の生け贄といった型に入る。来るべき神のために機を構えて、布を織っていた。神御服(カムミソ)はすなわち、神の身とも考えられていたからだ。

柳田、折口ともに、古代日本においては、聖なる乙女が神のための衣装を織って、神迎えしたことを述べている。狩俣のマヅマラーも、そのような聖なる乙女のひとりだとみてよいだろう。
この聖なる衣装が奪われようとしたときに、甥のマブコイは、頼まれたわけでもないのに、マヅマラーの織り上げた聖なる衣装を守るために、襲撃する敵を打ち倒すことになる。
ここに母系親族における叔母、甥の関係をみることができる。叔母が聖性を受け持ち、甥は地上的な権力(この歌の場合は武力・腕力)を受け持つという関係性だ。甥の地上的な権力は、叔母の持つ聖性によって保たれているので、甥は頼まれることがなくとも、叔母を守るために戦うことになる。
この叔母、甥の関係性は、姉妹が聖性を受け持ち、兄弟が姉妹の持つ聖性によって地上的な権力を獲得するという「オナリ神」信仰のバリエーションだといえる。聖性と権力における叔母、甥の関係性は、兄弟姉妹が同世代であるのに対して、叔母と甥は一世代異なるだけで、同様の関係性にあるといえるからである。


歌詞は、稲村賢敷『宮古島旧記並史歌集解』による。
・「布(ぬぬ)」などのルビのふられた漢字表記は、ルビだけを表記した。
・訳は稲村賢敷の解釈をもとに、私訳(具志堅 要)した。


狩俣うやがむのにーり(三)

まづまらーが てまさりやが やれこの
マヅマラーは、優れた織り手は、ヤレコノ

とえんぬぬ、よんたらい、たてばし
十読みの布を、読み揃えて、織機にたてて、

みゆうとぬぬ、あまぎぬぬ、すでばし
夫婦(二反)布を、アマギ(一反に余る)布を織りあげた

ぴといおい、すかまおい、からだ、
一日で織りあげて、昼間だけで織りあげてしまったから、

みゆうとぬぬ、あまぎぬぬ、おりやつみ
夫婦布を、アマギ布を織り集め、

おりやつみ、しらつみて、からや
織り集め、仕上げ集めてからは、

うぷぐふん、里んなか、むちみやい、
ウプグスク・ムトゥにも、集落の中にも持ちよって、

ふたいぎん、あまぎぎん、ぬやつみ、
二重の着物を、袷の着物を縫い集め、

ぬやつみて、しらつみて、からや
縫い集めて、仕上げ集めてからは、

まんみうき、まふぎうき、みちから、
ま胸にかけ、ま首にかけてみたら、

あてのかぎ、どきのかぎ、かりば、
あまりに美しく、とても美しかったので、

みやーくとなぎ、すまとなぎ、とよたれ、
ミャーク(シマの対語)のあらん限り、シマのあらん限りの名声を得た。

にしまがみ、しらすがみ、とよたれ、
根の島まで、神々の世界にまで届く名声を得た。

うきながみ、うまいがみ、とよたれ
沖縄まで、〔王の〕御前まで届く名声を得た。

とよんとうり、みやーがいとうり、うらまち、
名高くあり続けて、誇り続けてくださいませ。

すむずあーだ、すがまあーだ、まばから、
下地(地名)の百姓たち、洲鎌(地名)の平民たちが、

ぴさらうーや、ぴさらとの、とのや、
ピサラ(平良)の士族たち、ピサラの殿たちが、

かうてがら、いれてがら、こころ、
買うというのなら、欲しいというのなら、その気にもなるけれど、

かおかねーが、いえかねーが、まばから、
買うとも、欲しいとも言わないで、

ぴさらうーや、ぴさらとの、とのや、
ピサラ(平良)の士族たち、ピサラの殿たちは、

むぬうわやみ、むぬそねま、やりば、
物を羨(うらや)み、物を嫉(そね)む人たちだから、

ぬぬとらで、玉とらで、きたんも、
布を奪いとろうと、玉を奪いとろうとやって来たのだろうか。

まやぬまーぶ、とよんまーぶ、こいや
前の家のマブコイは、名高いマブコイは、

ならぐとん、さすぐとん、あらだ、
自分のことでも、指名されたわけでもないのに、

ならぶばが、うやぶばが、つみやん、
自分の叔母さん、尊い叔母さんのために、

やらぱいで、やらとんで、みりば、
家から走り出て、家から跳び出して見たら、

んなばすぬ、ぱるばすぬ、うざむや、
辺境の、原野の果てに住む賤しい連中が

いんのえーの、ふつんきやーの、みつきやど、
海上に、海岸に満ち満ちて、

いつんなり、からんなり、たちうりば、
戦意に満ちて、力を漲らせて立っているので、

まやぬまーぶ、とよんまーぶ、こいや
前の家のマブコイは、名高いマブコイは、

ややぴとき、さとむとん、ぴやりみやい、
家まで一息に、里元まで走り帰って、

ならかたな、さすみづら、取りさし、
自分の刀を、差す剣を取り差して、

うぷぐふん、さとんなか、ぴやりみやい、
ウプグスク(大城)・ムトゥに、集落の中央に走り帰って、

ならかたな、さすみづら、ぬぎやぎ、
自分の刀を、差す剣を抜き出して、

たうきやこーろ、ぴといこーろ、ころばし、
ひとり一人と倒していった。

まやぬまーぶ、とよんまーぶ、こいや
前の家のマブコイは、名高いマブコイは、

みやーくとなぎ、すまとなぎ、とよたれ、
ミャーク(シマの対語)のあらん限り、シマのあらん限りの名声を得た。

うきながみ、うまいがみ、とよたれ
沖縄まで、〔王の〕御前まで届く名声を得た。

にしまがみ、しらすがみ、とよたれ、
根の島まで、神々の世界にまで届く名声を得た。

とよんとうり、みやーがいとうり、うらまち、
名高くあり続けて、誇り続けてくださいませ。

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