アグリツーリズムによる過疎地の再生——楠木千珠さん、サンジチャー講座で語る——

具志堅 要

2025年01月20日 12:05



「イタリアのアグリツーリズムから、美しい田舎を考える」をテーマに、サンジチャー講座が1月19日(日)にやんばるHotCafe(今帰仁村上運天848-4)で開かれました。
語り手は今帰仁村にお住まいの楠木千珠さん(31)。
アグリツーリズムというのは、農村や農場で休暇を過ごす滞在型の旅行スタイルをいいます。農村の地域資源を活用して、農業や地域の魅力を体験することで、農村の機能保全や地域活性化を目指すものです。
千珠さんは27歳で会社を辞め、イタリアのアグリツーリズムの施設で2年間働いてきました。生の体験を通して、沖縄におけるアグリツーリズムの可能性を語りました。
主なテーマとなるのは、「スローフード」「ソーシャルファーム」「アルベルゴ・ディフィーゾ」についてです。

「スローフード」はマクドナルドのイタリア出店へのカウンターとして、1980年代のイタリアで始まったものです。「おいしい、きれい(Clean)、ただしい(Fair)」をモットーに、金持ちのためではなく誰でも食べられる食品の提供を目指すものです。

「アグリツーリズム」は1960年代のイタリアで始まります。宿泊施設に対する国の規制が1970年代に州単位で基準が弱められ、普通の農家でも民宿が経営できるようになります。
農業経営者が民宿の経営者になり、地場産の食べ物を提供します。2006年には法改正があり、自家産から地域産へ、食べ物の基準がゆるめられます。その結果、アグリツーリズムを行う農家が2万5000軒になりました。
利用者の6割が外国人で、千珠さんの働いていた最初の農家は、利用者のほとんどがオランダ人でした。その農家では1キロメートル四方で採れた食品を提供していたとのことです。

「ソーシャルファーム」とは、自律的な経営を行いながら、様々な理由により就労に困難を抱える方々が必要なサポートを受け、他の従業員と共に働く社会的企業のことをいいます。
千珠さんはアグリツーリズムの次に、ソーシャルファームで働きます。そこは精神病院の退院者、障碍者、健常者が共に働く職場でした。
イタリアでは1978年のバザーリア法によって精神病院が閉鎖され、精神病院がない社会がつくられました。1999年にはイタリア全土で精神病院が閉鎖されます。
障害者を同じ社会のなかで支え、個性を尊重するとともに多様性を活かそうという概念にインクルージョンという言葉があります。イタリアではそのインクルージョンを徹底したのです。そのインクルージョンとスローフードが結びついて、ソーシャルファームの基盤を創り出します。
千珠さんが働いたソーシャルファームでは、週のうち金・土・日曜日はレストランで働き、それ以外の日は畑と家畜の世話になります。朝の鶏の卵取りから障害者の活動が始まります。

「アルベルゴ・ディフーゾ」というのは、過疎地域で地域の空き家を利用した分散型のホテルのことをいいます。
1970年代のイタリアで始まったもので、街全体をホテルにし、地域に暮らすように宿泊するものです。英語版Wikipediaによると、以下の条件を満たす必要があるとのことです。

•個人オーナーが直接経営し、通常のホテルサービスを提供すること。
•歴史的中心部にある既存の建物を改装した客室
•中央受付で食事を提供
•宿泊客が地元の生活に溶け込めるよう、本物のコミュニティーの一部であること。



沖縄のホテルはほとんどすべてが左のように立てられます。料理の素材も地元産は少なく、文化的にも地元コミュニティと隔絶し、経済的にも地元コミュニティを潤す効果に乏しいものです。
アルベルゴ・ディフーゾの場合は、地元コミュニティの空き家全体がホテルとなりますので、滞在する中で地元コミュニティとの交流が深まります。12月に開かれた島袋正敏さんのサンジチャー講座では、逆格差論に触れながら、1970年代に展開された逆格差論には文化的な要因が欠けていたとの反省がありました。
アルベルゴ・ディフーゾではその文化的な要因をカバーすることができるのではないかと千珠さんは指摘していました。

最後に千珠さんは、「スローフード」「ソーシャルファーム」「アルベルゴ・ディフィーゾ」は、「分かちがたく結びついている」という言葉で講座を結びました。
「スローフード」「ソーシャルファーム」「アルベルゴ・ディフィーゾ」というのは、リゾート開発が進む前の沖縄では、イメージすることのむつかしいものではありません。
•1950年代までの沖縄は食べ物の多くを自給することができた。
•復帰前までは障碍者の方たちは施設に収容されることは少なく、街の中で共生していた。
•復帰前までは地域の公民館や共同売店が地域自治の中心にあり、シマ社会自体が協同組合的な自治意識を持っていた。
このような自分たちの受け継いだ遺産を分断によって手放すのではなく、分かちがたく結びつけることによって、過疎とされる地域は、逆に未来社会のモデルに逆転することができます。
「結びつけることを大事にする」ということにより、「スローフード」「ソーシャルファーム」「アルベルゴ・ディフィーゾ」が可能になり、具体的なものになるのではないでしょうか。

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