今日、ご近所で豚の解体をするというのでお呼ばれに行ったら、
作業小屋に修理中のサバニが鎮座していた。
思わず、宮古諸島の古謡の一節を思い出してしまった。
船に変身した美女の物語で、
池間島の大酋長の末っ子に生まれたが、
石垣島の於茂登岳の神にさらわれて、
於茂登岳で死に絶え、
死体からは樹が生え、
美しい船に変身してしまったという内容の歌だ。
てぃびから みーてぃが いらまーん まっさびが しるてぃびよー
〔建造した船を〕船尾から見ると、ほんとにまあ、マッサビの白いお尻〔のよう〕だ。
まいから みーてぃがーよー うとぅがふぁーぬ しらうむてぃよー
前から見ると、末の子の白い顔〔のよう〕だ。
サバニはホントに歌のように美しかった。
池ぬ大按司鳴響み親のアーグ(池間島)
池間島の大酋長・鳴り響く親は、鳴り響く大酋長・名高い者は、
高貴な者だった、優れた者だった
かなたから通って、遠くから妻問いして、
村の妻を訪ねた、隣りの恋人を抱きとった、
上に乗って愛おしかったか、抱いて愛おしかったのか、
上に乗って愛おしい者だった、抱いて愛おしい者だった。
幾夜も通わないうちに、夜を重ねないうちに、
女が五人生まれた。姉妹が七人誕生した。
〔誕生した女の子の中でも〕マッサビーはほんとうに、我が姉妹はとりわけて、
末っ子だから、生み止めの子だから、
生まれながらに〔器量が〕まさり、生い立ち〔の器量〕も〔人に〕倍する者だった。
思うこともすぐれ、思慮深かった。
〔マッサビは、人よりも〕まさっていたので、〔能力が〕重ねていた(人の倍あった)ので、
貴族たちが〔妻にと〕望み、領主たちが〔妻に〕欲しいと〔言った〕。
貴族たちの御前から、領主たちの御前から、
請う人をよこしたら、仲人をやらしたら、
貴族たちを夫にする気はない。今は楽であっても、
手を触れ合っているあいだは、〔夫が訪れて妻の家に〕居るあいだは安心であっても、
後のためにはならないだろう。シマの隣近所とのつきあいはできないだろう。
シマの夫を持てば、シマの隣近所とつきあっていくだろう。
こう言って〔請う人を〕帰したら、それだけ述べて〔仲人を〕戻したら、
帰していると、戻していると、
山の若佐事(山仕事をする若者)が、竜巻の利巧者が〔訪ねて来て〕、
貴族を〔夫にしようと〕思わないならば、わたしと居りなさいマッサビ、
領主を〔夫に〕望まないならば、佐事と居りなさいマッサビよ〔と言った〕。
貴族さえ拒絶しているのに、あなた〔のようにみすぼらしい者〕といられるものか、
領主さえも拒んでいるのに、佐事〔のように身分の低い者〕といられるものか〔とマッサビは答えた〕。
〔そうすると若佐事は、〕おまえのしたい放題にはさせない、メガ(女性の尊称)の思うがままにはさせない〔と言って〕、
〔竜巻とともに、マッサビを〕於茂登岳に攫(さら)い登った。島の高峰に攫い登った。
〔於茂登岳の神が〕月三月(三ヵ月)も〔マッサビを於茂登岳に〕籠らせた。九十日も籠らせた。
マッサビはほんとうに、飢えてしまって、
末の子はどうしようもなく、弱ってしまって、
ひもじいとは言えなくて、弱っていると伝えられずに、
〔於茂登岳の神に〕「山だから居ることができない、大草原だから暮らすことができない、
もう許してください、もう解放してください」〔と願った〕。
〔すると於茂登岳の神は〕「男の〔ような〕心(度胸)を持っていたら、武士(さむらい)の心を持っていたなら、
もう帰っていいよマツサビ、家に走れ末の子よ」〔と言った〕。
〔マッサビが〕「わたしは女だけれど、男の心を持ってみよう、
わたしは姉妹だけれど、武士の心を持ってみよう」〔と言うと〕、
〔於茂登岳の神は〕「それでは去れマッサビ、さあ戻れ親元へ」〔と言った〕。
〔帰る〕道の途中に行くと、原野の中に立っていると、
山からの水が、山を轟かせて流れていたので、
山岳からの水が、山岳を轟かせて流れていたので、
〔マッサビは勇気を失って〕男の心を持てない、武士の心を持つことはできない〔とその場で倒れてしまった〕。
山の河原のかたわらで、飛沫(しぶき)を上げる水のかたわらで、
〔マッサビは〕片方の肩を下にして、片方の目玉を下にして〔死んでしまった〕。
〔マッサビの〕片目からは木が生い茂り、片目からは白い根が生い茂った。
〔マッサビは〕七人〔姉妹〕の末っ子として生まれたが、助けてくれる人はいない。
五人〔姉妹〕の末の子だったが、〔この受難から〕逃れさせてくれる人はいない。
〔船大工たちは歌う〕わが八重山の島は、並みいる大工たちの島だから、
女でさえも、寄り集まる大工の島だから
大和〔の国〕伝来の、大斧を打ちふるい、
五枚の大板を〔剥ぎ合わせて〕ほんとうに、伝馬船を建造した。
〔建造した船を〕船尾から見ると、ほんとにまあ、マッサビの白いお尻〔のよう〕だ。
前から見ると、末の子の白い顔〔のよう〕だ。
大海原に船出して〔船を〕走らせると、〔珊瑚礁の〕外海に船出して走らせると、
〔大海原を疾走する姿は、〕マッサビが、ほんとうにまあ、大地を踏みしめるようだ。
外間守善・新里幸昭編『南島歌謡大成 3宮古篇』(1977年、角川書店)から
具志堅要訳