「食前の祈り」によって家族意識が誕生し、「子ども」が発見される

「食前の祈り」によって家族意識が誕生し、「子ども」が発見される
ヤン・ステーン『食前の祈り』(1663-65年頃)プライベート・コレクション

一番小さな子が「食前の祈り」を捧げることになっていた。
食前の祈りを捧げるのは本来は司祭(神父)の役割だった。
小さな子は司祭に代わって食前の祈りを捧げ、家庭に神の加護をもたらした。
司祭(神父)に代わって祈る者が出現したことによって、家庭は小さな教会となった。
食前の祈りを捧げることにより、小さな子は神の代理人の位置を占めるようになっていく。
家庭の中にはドメスティックな信仰心が確立され、家族意識が誕生していく。
家族意識が誕生するとともに、家族の中にいる「子ども」という存在が発見されていく。

「食前の祈り」によって家族意識が誕生し、「子ども」が発見される
ニコラース・マース『子どもたちを祝福するキリスト』(1652-53年の間、ナショナル・ギャラリー、ロンドン)

新しい画題である「食前の祈り」は、さらに一層意味深長な手法で、家族の意識の宗教的要素を描き出している。はるか以前から、司祭に代って一人の少年が、食事の始めに祝福の言葉を述べることが「礼儀」の上で望ましい、とされていた。(中略)周知のように、当時、子供という言葉は、小さな子供たちばかりでなく比較的大きな少年たちをも意味していた。これに対して十六世紀の礼儀作法集では、食前の祈りを唱える役目をどの子供にでもというのでなく、最年少の子供だけに指定していた。
(フィリップ・アリエス『〈子供〉の誕生』より)



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