ニービチが意味を持ち始める頃の歌

一合酒むてぃん 二合酒むてぃん
 ぬびちさぬまでぃや うとぅやあらぬ

【私訳】両家の酒盛りをしても、近親の酒盛りをしても、ニービチ(嫁入り)の儀式が済むまでは、夫ではないんだよ。

この歌は、今帰仁村仲尾次の渡名喜マツ(1890〜1993)が詠んだものだ。
近代以前の沖縄の民衆層における婚姻は、夫が夜だけ妻のもとに通うという通い婚だった。
嫁入りにあたるニービチは省略されることも多かった。
1898年に明治民法が公布され、
ニービチが結婚の代名詞になっていく。
マツはニービチが意味を持ち始める世相を詠んだのだ。

通い婚は当事者どうしで配偶者を決定していたが、
ニービチでは親決め婚に変化する。
なぜマツは親決め婚であるニービチを正式の結婚だと主張したのだろうか。
その背景には、婚約の酒盛りを父親が勝手に取り決める
ということがあったのかもしれない。
親が勝手に配偶者を決めても、
ニービチするまでは破約にする権利が自分にはある、
ニービチを盾にとって、親決め婚への異議申し立てをしたとも読める。

歌の出典:酒井正子「ウタと共に生きる:沖縄・本部半島の音楽文化(1)」湘南国際女子短期大学紀要第 5巻(1998年)


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