ハンス・ホルバイン画『死の舞踏_教皇』1524=1538年、ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵
ローマ教皇が皇帝に戴冠している。皇帝は教皇の足に接吻している。
教皇は使徒ペテロの代理人であり、ペテロに代わって皇帝に権威を授ける。
ところが教皇の背後と枢機卿の背後には死が控えている。
地上における神の代理人も、死から免れることはできない。
つまり権威はそれだけのものに過ぎないということだ。
教皇の椅子には裸婦が悪魔の姿で描かれている。教皇はさほど禁欲的ではないようだ。
悪魔が二匹いて、一匹は戴冠式を見つめている。
もう一匹は、贖宥状を広げている。
ローマ教皇には皇帝に支配権を授ける権威がないことが、
罪を軽減する力もないことが表されている。
ホルバインは躊躇いもなくルターを支持していたのだろう。
ホルバインが下絵を描いたとされる1524年には
ルターの宗教改革を支持してドイツ農民戦争が勃発する。
ホルバインはまだこの農民一揆がどういう結末を迎えるのかを、知らなかった。
ルターは最初は農民たちの一揆を支持していたが、後に鎮圧側にまわり、
農民一揆は数十万人の死者を出して鎮圧されることになる。